Share

第6話 隙のない乗り換え

Author: 夕凪
last update Petsa ng paglalathala: 2026-06-04 18:26:15

第6話 隙のない乗り換え

蓮はグラスの赤ワインを揺らしながら、軽く鼻で笑った。

「チャンスは準備している者のもとに来るんだよ」

「……」翔太は言葉を失った。

まあ、その言葉には大いに同意する。

てめえは人の婚約者を丸一年も狙い続けて、ようやく隙のない乗り換えを決めたわけだ。

まったくもって、図々しさの極みだ。

俺様もお前を軽蔑する……。

「よくやった!」

これ、かなり良心が痛む発言だった。

「あいつは彼女には釣り合わねえ」

蓮はワイングラスを揺らしながら、その赤を通して……今でも鮮明に覚えている。初めて会った日、彼女は赤いワンピースを着ていて、不意打ちのように彼の目に飛び込んできた。

一目で、魂まで奪われた。

「……」

瑛士は前世でよっぽど悪いことでもしたんだな、お前なんかに出会ってしまって。

一年前、瑛士が婚約して初めて彼女を連れてきた時、翔太は蓮の様子がおかしいことに気づいていた。

こいつ、人の婚約者に目が釘付けで、一晩中、百回はチラ見してた。

で……一ヶ月後には、やたらと色気たっぷりに、へその下一寸のところに、妖しく蠱惑的な黒薔薇のタトゥーを斜めに彫りやがった。

しかも葉っぱの部分には、くっきりと『美月』の文字が。

ありえないにもほどがある。

もちろん、俺も前世で悪いことしたんだろうな……このタトゥー、俺が彫ったんだから。

天地神明に誓って! なんでまだ若い俺がこんなことに付き合わなきゃならんのだ?

それに、これから瑛士とどう顔を合わせればいいんだ?

あいつ、俺が知ってた上に協力者だったって知ったら、追いかけてきて刺すんじゃないか?

「蓮、俺様はお前のためにとんでもなく犠牲を払ってるんだぞ……このびくびくした不安な心、ちゃんと補償しろよな……」

蓮は冷ややかに笑った。

「そんなにビビってんなら、金出してやるから海外で性転換でもしてこい」

「……」翔太は言葉を失った。

お前、それ人間の言うことか? うちのアラスカン・マラミュートのほうがまだ人間味がある。

「蓮、ひとつ訊くけどな、入籍には戸籍謄本が要るんだぞ。美月ちゃんの戸籍謄本、ちゃんと彼女の手元にあるのか?」

蓮は危険な目つきで桃花の瞳を細めた。

「誰がちゃん付けだ? その名前、お前が呼んでいい名前か?」

「……」

くそったれ。

名前くらいで、そこまでムキになるか?

つーか、そこがポイントかよ?

蓮はグラスを置き、車のキーとスマホをつかんで外へ向かった。

翔太はそれを見て慌てて訊いた。

「どこ行くんだよ?」

「帰る」

蓮は二言だけ残して去った。

「……」

てめえ、ここに泊まるって言ったじゃねえか。

蓮は車を走らせて別荘に戻った。

相変わらず、家はいつものようにもの寂しいほど静かだった。

だが、蓮にはどこか違って感じられた。

二階への足取りはやや速まったが、客間の前に着くと、彼はゆっくりと歩を緩め、一分間じっと佇んでから、手を上げてドアをノックした。

美月はまだ眠っていなかった。見知らぬ環境でそこまで図太くはなれない。

突然ノックの音が聞こえて、彼女の瞳がわずかに止まった。

……蓮? 帰らないんじゃなかったの?

まさか……もし別人なら、自分の腕で勝てる自信はある。でも蓮は、腕っぷしが相当強いと聞いている。

彼女は唇を少し引き結び、それでも立ち上がってドアを開けに行った。

ふわりと酒の匂いが漂ったが、特別不快な匂いではなかった。

「お前の戸籍謄本」

「……は?」

蓮は片眉を上げた。

「俺だって初めての入籍でも戸籍謄本が要るってことくらい知ってる。お前、まさかそれすら知らねえのか?」

「……」

誰をバカにしてるの?

「それで、真夜中にわざわざ、それを言いに来たの?」

メッセージの一つも送ればいいじゃない。

「持ってないのか?」蓮の眉がわずかに寄った。「よし、橘家に取りに行くぞ」

美月は彼が伸ばしてきた手をパシッと払い、無表情で彼を見つめた。

「明日取りに行くわ」

今は深夜零時だ。橘家の怒りはもう家が燃え上がるほどで、まさに彼女を探し回っているところだろう。

わざわざ怒鳴られに行くほど、彼女はバカじゃない。

Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App

Pinakabagong kabanata

  • 婚約者を寝取られた夜、財閥御曹司に溺愛されました   第278話 反省すべきは、そっちでしょう

    第278話 反省すべきは、そっちでしょう「つまり、雅もここにいるということ?」雨子はその話を聞き、少し意外に思った。――こんなところで鉢合わせするとは、本当に偶然だ。志織は思わず口元をへの字に曲げた。「そうよ。ちょうどあの美月を連れてきているわ」雅が美月をあれほどちやほやしている——その姿を思い出すだけで、志織は吐き気がした。――まったく、みっともない。姑が嫁をそこまで持ち上げるなんて、上流の奥様たちの間では聞いたこともない。相手がそれなりの家柄ならまだしも、美月のような連れ子ごときに、姑の体面も捨ててちやほやするなんて。笑い話にもならない。浅ましいにもほどがある。雨子の表情も、たちまち険しくなった。内心、不機嫌だったのだ。――雅は何を考えているのだろう。あの小娘まで、わざわざここに連れてくるなんて。まさか、あの小娘がこんな高級エステを利用できると思っているのか。ふん! 名家に嫁いだくらいで、身分まで上がったつもりかしら。猫に小判もいいところだわ。胸の奥に湧き上がった不快感が、雨子の上機嫌をあっさり吹き飛ばした。――雅はきっと、姑の寛大さをこれみよがしに見せて、良い姑を演じているのね。私を悪い姑に仕立て上げるつもりかしら。「あとで、ちょっと挨拶に行きましょうか?」――そうい

  • 婚約者を寝取られた夜、財閥御曹司に溺愛されました   第277話 まるで長年の親友のように

    第277話 まるで長年の親友のように志織が料金を振り込むと、プラチナ会員カードはブラック会員カードに切り替えられた。それまでプラチナ会員カードに残っていた金額も、すべて新しいブラック会員カードに移された。店員は恭しくカードを志織に差し出した。「どうぞお受け取りくださいませ!」志織はカードを受け取った。さすがに高額な会員カードだけあって、手にした感触まで違うように思えた。それでも、胸中は複雑だった。たった一枚のカードに、一千万円もの大金をつぎ込んだのだ。志織は大きく息を吸い込んだ。――せっかくこれだけのお金を使ったのだから、それに見合った待遇を受けなければ損だ。彼女は顎を上げ、いかにも高貴な奥様らしい態度で告げた。「それじゃあ、さっきのコースを私にも手配してちょうだい」店員は志織の尊大な態度など気にも留めず、笑顔で応じた。「かしこまりました。お嬢様も同じコースでよろしいでしょうか?」「いいえ、娘には結構よ。生まれつき美人だし、まだ若いから、あんな本格的なケアは必要ないわ。基本コースで十分よ」母の言葉を聞き、茜は少し面白くなかった。――なぜ自分だけ基本コースなの?だが、母の表情を見れば、その理由は明らかだった。一千万円もの出費を惜しんでいるのだ。――たかが一千万円で、そこまで渋る必要があるのだろうか。

  • 婚約者を寝取られた夜、財閥御曹司に溺愛されました   第276話 誰が払えないっていうのよ

    第276話 誰が払えないっていうのよそれを聞いて、雅は上機嫌になった。自分が褒められるより、ずっと嬉しかった。「そうでしょう! 本当に綺麗よね! やっぱりうちの嫁が一番だわ!」美月は思わず言葉を失った。「……」――他人が褒めてくれるのはともかく、身内まで一緒になって褒めちぎるとは。そのとき、店長も知らせを受け、慌てて駆けつけてきた。二人の前まで来ると、店長は満面の笑みで挨拶した。「雅さま、いらっしゃいませ! 本当にお久しぶりでございます! こちらが若奥様でいらっしゃいますね! なんてお美しいのでしょう!」そして、またしても美月を褒めちぎった。雅はすっかり気をよくし、口元が緩みっぱなしだった。ちょうどその頃、志織と茜も店に入ってきた。本当は今すぐ帰りたいところだったが、雨子と約束している。すっぽかすわけにはいかない。店長が雅にあれほどへつらっているのを目にし、志織はますます不愉快になった。店員は二人の来店に気づくと、当然のように接客に出てきた。しかし、目の前の光景を見れば見るほど、志織の不満は募るばかりだった。――なぜ雅のところには店長自らが出迎えるのに、自分たちはただの店員なのか。雅は志織たちを完全に無視して、店長を伴い、美月と一緒に施術室へ向かった。志織は、二人が二階へ上がっていくのを、ただ見送るしかなかった。

  • 婚約者を寝取られた夜、財閥御曹司に溺愛されました   第275話 まるで本当の母娘のように

    第275話 まるで本当の母娘のように雅も同じ気持ちだった。――まさか、こんなところであの二人に出くわすとは。まったく、運が悪いにもほどがある。雅は美月のほうに顔を寄せ、声を潜めて囁いた。「美月ちゃん、あの二人のことなんて気にしなくていいからね。もし何か言ってきたら、遠慮せずに言い返しなさい」――あんな奴らのために引き返すなんて、あり得ない。美月は絶句した。「……」二人は、そのまま志織たちの前を通り過ぎようとした。雅と美月を見た瞬間、志織はカッとなった。でも、人目があるから、ここで暴れるわけにはいかない。せいぜい、嫌味の一つを言ってやるくらいだ。「あら、これは雅さんじゃないの。どうしたの? お嫁さんを連れてエステに来たの? 偶然だね!」雅は志織を相手にするのも面倒だった。「あんたには関係ないでしょ! そこをどいて。邪魔よ」そう言い放つと、志織が反応する間もなく、雅は彼女を押しのけて進んだ。不意を突かれた志織は、よろめいた。幸い、隣にいた茜がすかさず母親を支えた。二人は当然、雅の乱暴な振る舞いに腹を立てた。しかし、当の雅はすでに店の中へ入ってしまっていた。志織は、顔が真っ赤になるほど怒っていた。――くそっ、よりにもよってこんなとこ

  • 婚約者を寝取られた夜、財閥御曹司に溺愛されました   第274話 最悪の鉢合わせ

    第274話 最悪の鉢合わせ茜はしばらく黙り込んだ。彼女にとって、あまりにも予想外の話だった。娘が何も答えないので、志織は思わず眉をひそめた。「どうしたの? 瑛士じゃダメなの? あれだけ条件のいい相手なのに。じゃあ、誰が好きなのよ?」茜の心は複雑だった。「でも、瑛士は優香と婚約を解消したばかりじゃない? 今すぐ近づくのはよくないと思う。それに、この話、瑛士は知ってるの? 私、優香と同じ目に遭いたくない」今や優香は、帝都の令嬢たちの社交界で完全に評判を落としていた。悪評どころか、誰もが眉をひそめるほどだった。名門・白井家の令嬢が、二人の男のせいでここまで惨めな目に遭ったのだ。周囲は彼女を笑いものにしながらも、自分たちも気をつけなければと身を引き締めていた。誰も、次の優香にはなりたくなかった。しかし、志織は娘の懸念など気にも留めなかった。「婚約を解消したんだから、もう関係ないでしょ? 別れてからどれだけ経ったかなんて、問題じゃないわ。まずは二人で接点を持てばいいのよ。うまくいけばそれでよし、だめならそのとき考えればいいじゃない」志織はわずかに眉を上げ、娘を挑発するように言った。「まさか、瑛士を振り向かせる自信もないの? 私の娘なら、そんなに頼りないはずないでしょ」茜は言葉に詰まった。「……」とはいえ、母の挑発はなかなか効いた。茜の表情が、少しずつ和らいでいった。――うちは桐生家には及ばない。

  • 婚約者を寝取られた夜、財閥御曹司に溺愛されました   第273話 志織の目論見

    第273話 志織の目論見美月は彼を呼び止めた。「待って。十時から会議があるの。あなたも出てちょうだい」大沢はうなずいた。「分かりました。私から皆に伝えておきます」そう言って、彼はオフィスを出ていった。美月はもともと、グッズ事業は後回しにするつもりだった。でも、どうやら少し出遅れてしまったようだ。彼女はパソコンを開き、仕事に取りかかった。十時になると、美月は時間どおりに会議室へ入った。他の社員たちはすでに揃っていた。美月は上座に歩いていき、腰を下ろした。余計な前置きはせず、さっそく本題に入った。「剛、まずはクローズドβテストのデータを報告してちょうだい」名前を呼ばれた剛は、すでに準備万端だった。用意していたプレゼン資料を開き、報告を始めた。会議は三十分ほどで終了した。解散する際、美月は広告宣伝部の主任を呼び止めた。「佐野さん、明日の退勤時間までに宣伝案、直せる?」佐野は慌ててうなずいた。「できます!」「じゃあ、仕事に戻ってちょうだい」美月はそう言って、彼を下がらせた。彼女自身もオフィスへ戻った。十一時になると、美月は荷物をまとめ、少し早めに会社を出た。何しろ、

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status